たの朝《あさ》、ここへおせんに来《き》てもらおうから、太夫《たゆう》ももう一|度《ど》、ここまで出《で》て来《き》てもらいたいと、約束事《やくそくごと》が出来《でき》たんだが、――のうおせん。おいらの前《まえ》じゃ、肌《はだ》まで見《み》せて、絵《え》を写《うつ》させるお前《まえ》じゃないか、相手《あいて》が誰《だれ》であろうと、ここで一時《いっとき》、茶のみ話《ばなし》をするだけだ。心持《こころも》よく会《あ》ってやるがいいわな」
「さァ。――」
「今更《いまさら》思案《しあん》もないであろう。こうしているうちにも、もうそこらへ、やって来《き》たかも知《し》れまいて」
「まァ、師匠《ししょう》さん」
「はッはッは。お前《まえ》、めっきり気《き》が小《ちい》さくなったの」
「そんな訳《わけ》じゃござんせぬが、あたしゃ知《し》らない役者衆《やくしゃしゅう》とは。……」
「ほい、まだそんなことをいってるのか。なまじ知《し》ってる顔《かお》よりも、はじめて会《あ》って見《み》る方《ほう》に、はずむ話《はなし》があるものだ。――それにお前《まえ》、相手《あいて》は当時《とうじ》上上吉《じょうじ
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