らが堺屋《さかいや》から頼《たの》まれた訳《わけ》ではないが、何《な》んといっても中村松江《なかむらしょうこう》なら、当時《とうじ》押《お》しも押《お》されもしない、立派《りっぱ》な太夫《たゆう》。その堺屋《さかいや》が秋《あき》の木挽町《こびきちょう》で、お前《まえ》のことを重助《じゅうすけ》さんに書《か》きおろさせて、舞台《いた》に上《の》せようというのだから、まず願《ねが》ってもないもっけ[#「もっけ」に傍点]の幸《さいわ》い。いやの応《おう》のということはなかろうじゃないか」
「はい、そりゃァもう、あたしに取《と》っては勿体《もったい》ないくらいの御贔屓《ごひいき》、いや応《おう》いったら、眼《め》がつぶれるかも知《し》れませぬが。……」
「それなら何《な》んでの」
「お師匠《ししょう》さん、堪忍《かんにん》しておくんなさい。あたしゃ知《し》らない役者衆《やくしゃしゅう》と、差《さ》しで会《あ》うのはいやでござんす」
「はッはッは、何《なに》かと思《おも》ったら、いつもの馬鹿気《ばかげ》たはにかみからか。ここへ堺屋《さかいや》を招《よ》んだのは、何《なに》もお前《まえ》と差《さ
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