》を済《す》ませて、池《いけ》の鯉《こい》に眼《め》をやりながら、何事《なにごと》かを、声《こえ》をひそめて話《はな》し合《あ》っていた。
「八つぁん、ちょいと来《き》てくんな」
「何《な》んだ藤《とう》さん」
 立《た》って来《き》た八五|郎《ろう》を、睨《にら》めるようにして、藤吉《とうきち》は口《くち》を尖《とが》らせた。
「お前《まえ》、あとから誰《だれ》が来《く》るか、知《し》ってるかい」
「知《し》らねえ」
「それ見《み》な。知《し》らねえで、よくそんなお接介《せっかい》が出来《でき》たもんだの」
「お接介《せっかい》たァ何《な》んのこッた」
「おせんちゃんを、先《さき》に立《た》って連《つ》れてくなんざ、お接介《せっかい》だよ」
「冗談《じょうだん》じゃねえ。おせんちゃんは、師匠《ししょう》に頼《たの》まれて、おいらが呼《よ》びに行《い》ったんだぜ。――おめえはまだ、顔《かお》を洗《あら》わねえんだの」
 顔《かお》はとうに洗《あら》っていたが、藤吉《とうきち》の眼頭《めがしら》には、目脂《めやに》が小汚《こぎた》なくこすり付《つ》いていた。

    六

 赤《あか》
前へ 次へ
全263ページ中86ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
邦枝 完二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング