#「こく」に傍点]の鼻緒《はなお》の草履《ぞうり》を、後《うしろ》の仙蔵《せんぞう》にそろえさせて、扇《おうぎ》で朝日《あさひ》を避《さ》けながら、静《しず》かに駕籠《かご》を立《た》ち出《で》たおせんは、どこぞ大店《おおだな》の一人娘《ひとりむすめ》でもあるかのように、如何《いか》にも品《ひん》よく落着《おちつ》いていた。
「藤吉《とうきち》さん。ここであたしを、待《ま》ってでござんすかえ」
「そうともさ、肝腎《かんじん》の万年青《おもと》の掃除《そうじ》を半端《はんぱ》でやめて、半時《はんとき》も前《まえ》から、お前《まえ》さんの来《く》るのを待《ま》ってたんだ。――だがおせんちゃん。お前《まえ》は相変《あいかわ》らず、師匠《ししょう》の絵《え》のように綺麗《きれい》だのう」
「おや、朝《あさ》ッからおなぶりかえ」
「なぶるどころか。おいらァ惚《ほ》れ惚《ぼ》れ見《み》とれてるんだ。顔《かお》といい、姿《すがた》といい、お前《まえ》ほどの佳《い》い女《おんな》は江戸中《えどじゅう》探《さが》してもなかろうッて、師匠《ししょう》はいつも口癖《くちぐせ》のようにいってなさるぜ。うちのお
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