かお》をして、反《そ》りッかえってる野郎《やろう》ぞっきでげさァね。――おせんちゃんにゃ、千|人《にん》の男《おとこ》が首《くび》ッたけンなっても、及《およ》ばぬ鯉《こい》の滝《たき》のぼりだとは、知らねえんだから浅間《あさま》しいや」
「八つぁん。おせんの返事《へんじ》はどうだったんだ。直《す》ぐに来《く》るとか、来《こ》ないとか」
「めえりやすとも。もうおッつけ、そこいらで声《こえ》が聞《きこ》えますぜ」
 八五|郎《ろう》は得意《とくい》そうに小首《こくび》をかしげて、枝折戸《しおりど》の方《ほう》を指《ゆび》さした。

    五

 枝折戸《しおりど》の外《そと》に、外道《げどう》の面《つら》のような顔《かお》をして、ずんぐり立《た》って待《ま》っていた藤吉《とうきち》は、駕籠《かご》の中《なか》からこぼれ出《で》たおせんの裾《すそ》の乱《みだ》れに、今《いま》しもきょろりと、団栗《どんぐり》まなこを見張《みは》ったところだった。
「やッ、おせんちゃん。師匠《ししょう》がさっきから、首《くび》を長《なが》くしてお待《ま》ちかねだぜ」
 朱《しゅ》とお納戸《なんど》の、二こく[
前へ 次へ
全263ページ中82ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
邦枝 完二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング