ふさ》が、漸《ようや》く小豆大《あずきだい》のかたちをつらねた影《かげ》を、真下《ました》の流《なが》れに漂《ただよ》わせているばかりであった。
池《いけ》と名付《なづ》ける程《ほど》ではないが、一|坪余《つぼあま》りの自然《しぜん》の水溜《みずたま》りに、十|匹《ぴき》ばかりの緋鯉《ひごい》が数《かぞ》えられるその鯉《こい》の背《せ》を覆《おお》って、なかば花《はな》の散《ち》りかけた萩《はぎ》のうねりが、一叢《ひとむら》ぐっと大手《おおて》を広《ひろ》げた枝《えだ》の先《さき》から、今《いま》しもぽたりと落《お》ちたひとしずく。波紋《はもん》が次第《しだい》に大《おお》きく伸《の》びたささやかな波《なみ》の輪《わ》を、小枝《こえだ》の先《さき》でかき寄《よ》せながら、じっと水《みず》の面《おも》を見詰《みつ》めていたのは、四十五の年《とし》よりは十|年《ねん》も若《わか》く見《み》える、五|尺《しゃく》に満《み》たない小作《こづく》りの春信《はるのぶ》であった。
おおかた銜《くわ》えた楊枝《ようじ》を棄《す》てて、顔《かお》を洗《あら》ったばかりなのであろう。まだ右手《みぎて》
前へ
次へ
全263ページ中79ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
邦枝 完二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング