ふうりゅうえこよみどころ》鈴木春信《すずきはるのぶ》」
 水《みず》くきのあとも細々《ほそぼそ》と、流《なが》したように書《か》きつらねた木目《もくめ》の浮《う》いた看板《かんばん》に、片枝折《かたしおり》の竹《たけ》も朽《く》ちた屋根《やね》から柴垣《しばがき》へかけて、葡萄《ぶどう》の蔓《つる》が伸《の》び放題《ほうだい》の姿《すがた》を、三|尺《じゃく》ばかりの流《なが》れに映《うつ》した風雅《ふうが》なひと構《かま》え、お城《しろ》の松《まつ》も影《かげ》を曳《ひ》きそうな、日本橋《にほんばし》から北《きた》へ僅《わずか》に十|丁《ちょう》の江戸《えど》のまん中《なか》に、かくも鄙《ひな》びた住居《すまい》があろうかと、道往《みちゆ》く人《ひと》のささやき交《かわ》す白壁町《しろかべちょう》。夏《なつ》ならば、すいと飛《と》びだす迷《まよ》い蛍《ほたる》を、あれさ待《ま》ちなと、団扇《うちわ》で追《お》い寄《よ》るしなやかな手《て》も見《み》られるであろうが、はや秋《あき》の声《こえ》聞《き》く垣根《かきね》の外《そと》には、朝日《あさひ》を受《う》けた小葡萄《こぶどう》の房《
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