あの通《とお》り一|遍《ぺん》に咲《さ》きやしたぜ」
「ちげえねえ。葉ッぱにとまってた蛙《かえる》の野郎《やろう》までが、あんな大《おお》きな眼《め》を開《あ》きゃァがった」
「もういいから、やっておくんなさい」
「そんなら、ゆっくりめえりやしょう。――おせんちゃんが垂《たれ》を揚《あ》げておくんなさりゃ、どんなに肩身《かたみ》が広《ひろ》いか知《し》れやァしねえ。のう竹《たけ》」
「そうともそうとも。こうなったら、急《いそ》いでくれろと頼《たの》まれても、足《あし》がいうことを聞《き》きませんや。あっしと仙蔵《せんぞう》との、役得《やくとく》でげさァね」
「ほほほほ、そんならあたしゃ、垂《たれ》をおろしてもらいますよ」
「飛《と》んでもねえ。駕籠《かご》に乗《の》る人《ひと》かつぐ人《ひと》、行《ゆ》く先《さき》ァお客《きゃく》のままだが、かついでるうちァ、こっちのままでげすぜ。――それ竹《たけ》、なるたけ往来《おうらい》の人達《ひとたち》に目立《めだ》つように、腰《こし》をひねって歩《ある》きねえ」
「おっと、御念《ごねん》には及《およ》ばねえ。お上《かみ》が許《ゆる》しておくんな
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