ん》だ」
「そんじょそこらの、大道臼《だいどううす》を乗《の》せてるんじゃねえや。江戸《えど》一|番《ばん》のおせんちゃんを乗《の》せてるんだからの」
「そうとも」
「こうなると、銭金《ぜにかね》のお客《きゃく》じゃァねえ。こちとらの見得《みえ》になるんだ」
「その通《とお》りだ」
「おれァ、一|度《ど》、半蔵松葉《はんぞうまつば》の粧《よそ》おいという花魁《おいらん》を、小梅《こうめ》の寮《りょう》まで乗《の》せたことがあったっけが、入山形《いりやまがた》に一つ星《ぼし》の、全盛《ぜんせい》の太夫《たゆう》を乗《の》せた時《とき》だって、こんないい気持《きも》はしなかったぜ」
「もっともだ」
「垂《たれ》を揚《あ》げて、世間《せけん》の仲間《なかま》に見《み》せてやりてえくれえのものだの」
「おめえばかりじゃねえ。そいつァおいらもおんなじこッた」
「もし姐《ねえ》さん」と、後《うしろ》の方《ほう》から声《こえ》がかかった。
「あい」
「どうでげす。駕籠《かご》の垂《たれ》を揚《あ》げさしちァおくんなさるめえか」
「堪忍《かんにん》しておくんなさい。あたしゃ内所《ないしょ》の用事《よう
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