じ》でござんすから。……」
「折角《せっかく》お前《まえ》さんを乗《の》せながら、垂《たれ》をおろして担《かつ》いでたんじゃ、勿体《もったい》なくって仕方《しかた》がねえ。憚《はばか》ンながら駕籠定《かごさだ》の竹《たけ》と仙蔵《せんぞう》は、江戸《えど》一|番《ばん》のおせんちゃんを乗《の》せてるんだと、みんなに見《み》せてやりてえんで。……」
「どうかそんなことは、もういわないでおくんなさい」
「評判娘《ひょうばんむすめ》のおせんちゃんだ。両方《りょうほう》揚《あ》げて悪《わる》かったら、片《かた》ッ方《ぽう》だけでもようがしょう」
「そうだ、姐《ねえ》さん。こいつァ何《なに》も、あっしらばかりの見得《みえ》じゃァごあんせんぜ。春信《はるのぶ》さんの絵《え》で売《う》り込《こ》むのも、駕籠《かご》から窺《のぞ》いて見《み》せてやるのも、いずれは世間《せけん》へのおんなじ功徳《くどく》でげさァね。ひとつ思《おも》い切《き》って、ようがしょう」
「どうか堪忍《かんにん》。……」
「欲《よく》のねえお人《ひと》だなァ。垂《たれ》を揚《あ》げてごらんなせえ。あれ見《み》や、あれが水茶屋《み
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