ッて寸法《すんぽう》だろう」
「朝飯《あさめし》とお踏《ふ》みなすったか」
「そうだ。それともお前《まえ》さんのくるのを知《し》って、念入《ねんい》りの化粧《けしょう》ッてところか」
「嬉《うれ》しがらせは殺生《せっしょう》でげす。――おっと姐《ねえ》さん。おせんちゃんはどうしやした」
「唯今《ただいま》ちょいとお詣《まい》りに。――」
「どこへの」
「お稲荷様《いなりさま》でござんすよ」
「うむ、違《ちが》いない。ここァお稲荷様《いなりさま》の境内《けいだい》だっけの」
徳太郎《とくたろう》は漸《ようや》く安心《あんしん》したように、ふふふと軽《かる》く内所《ないしょ》で笑《わら》った。
二
橘屋《たちばなや》の若旦那《わかだんな》徳太郎《とくたろう》が、おせんの茶屋《ちゃや》で安心《あんしん》の胸《むね》を撫《な》でおろしていた時分《じぶん》、当《とう》のおせんは、神田白壁町《かんだしろかべちょう》の鈴木春信《すずきはるのぶ》の住居《すまい》へと、ひたすら駕籠《かご》を急《いそ》がせた。
「相棒《あいぼう》」
「おお」
「威勢《いせい》よくやんねえ」
「合点《がって
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