|郎《ろう》なんざ、貧乏神《びんぼうがみ》に見込《みこ》まれたせいか、いつもぴいぴい風車《かざぐるま》だ。そこへ行《い》くとおめえなんざ、おせんの爪《つめ》を糠袋《ぬかぶくろ》へ入《い》れて。……」
「なんだって八つぁん、おめえ夢《ゆめ》を見《み》てるんじゃねえか。爪《つめ》だの糠袋《ぬかぶくろ》だの、とそんなことァ、おれにゃァてんで通《つう》じねえよ」
「えええ隠《かく》しちゃァいけねえ。何《なに》から何《なに》まで、おれァ根《ね》こそぎ知《し》ってるぜ」
「知《し》ってるッて。――」
「知《し》らねえでどうするもんか。重《しげ》さん、おめえの夜《よ》あかしの仕事《しごと》は、銭《ぜに》のたまる稼《かせ》ぎじゃなくッて、色気《いろけ》のたまる楽《たの》しみじゃねえか」
「そ、そんなことが。……」
「嘘《うそ》だといいなさるのかい。証拠《しょうこ》はちゃんと上《あが》ってるんだぜ。おせんの爪《つめ》を煮《に》る匂《におい》は、さぞ香《こう》ばしくッて、いいだろうの」
「そいつを、おめえは誰《だれ》から聞《き》きなすった」
「誰《だれ》から聞《き》かねえでも、おいらの眼《め》は見透《みと
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