。そこへ来《き》たぜ」
出合頭《であいがしら》のつもりかなんぞの、至極《しごく》気軽《きがる》な調子《ちょうし》で、八五|郎《ろう》は春重《はるしげ》の前《まえ》へ立《た》ちふさがった。
「重《しげ》さん、大層《たいそう》早《はえ》えの」
びくっとしたように、春重《はるしげ》が爪先《つまさき》で立《た》ち止《どま》った。
「八つぁんか」
「八つぁんじゃねえぜ、一ぺえやったようないい顔色《かおいろ》をして、どこへ行《い》きなさる」
「柳湯《やなぎゆ》への」
「朝湯《あさゆ》たァしゃれてるの」
「しゃれてる訳《わけ》じゃねえが、寝《ね》ずに仕事《しごと》をしてたんで、湯《ゆ》へでも這入《はい》らねえことにゃ、はっきりしねえからよ」
「ふん、夜《よ》なべたァ恐《おそ》れ入《い》った。そんなに稼《かせ》いじゃ、銭《ぜに》がたまって仕方《しかた》があるめえ」
「だからよ。だから垢《あか》と一|緒《しょ》に、柳湯《やなぎゆ》へ捨《す》てに行《い》くところだ」
「ほう、済《す》まねえが、そんな無駄《むだ》な銭《ぜに》があるんなら、ちとこっちへ廻《まわ》して貰《もら》いてえの。おれだの松《まつ》五
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