《け》を、一|本《ぽん》一|本《ぽん》しゃぶったりするのを見《み》ちゃァいくらおいらが度胸《どきょう》を据《す》えたって。……」
「爪《つめ》を煮《に》るたァ、そいつァいってえ何《な》んのこったい」
「薬罐《やかん》に入《い》れて、女《おんな》の爪《つめ》を煮《に》るんだ」
「女《おんな》の爪《つめ》を煮《に》る。――」
「そうよ。おまけにこいつァ、ただの女《おんな》の爪《つめ》じゃァねえぜ。当時《とうじ》江戸《えど》で、一といって二と下《くだ》らねえといわれてる、笠森《かさもり》おせんの爪《つめ》なんだ」
「冗談《じょうだん》じゃねえ。おせんの爪《つめ》が、何《な》んで煮《に》る程《ほど》取《と》れるもんか、おめえも人《ひと》が好過《よす》ぎるぜ。春重《はるしげ》に欺《だま》されて、気味《きみ》が悪《わる》いの恐《おそ》ろしいのと、頭《あたま》を抱《かか》えて帰《かえ》ってくるなんざ、お笑《わら》い草《ぐさ》だ。おおかた絵《え》を描《か》く膠《にかわ》でも煮《に》ていたんだろう。そいつをおめえが間違《まちが》って。……」
「そ、そんなんじゃねえ。真正《しんしょう》間違《まちが》いのね
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