《しゃく》二|間《けん》の家《うち》の中《なか》は再《ふたた》び元通《もとどお》りの夜《よる》の世界《せかい》に変《かわ》って行《い》った。
「上《あが》ンねえ」
が、松《まつ》五|郎《ろう》は、次第《しだい》に鼻《はな》を衝《つ》いてくる異様《いよう》な匂《におい》に、そのままそこへ佇《たたず》んでしまった。
四
行燈《あんどん》はほのかにともっていたものの、日向《ひなた》から這入《はい》って来《き》たばかりの松《まつ》五|郎《ろう》の眼《め》には、家《うち》の中《なか》は真《ま》ッ暗闇《くらやみ》であった。
「松《まつ》つぁん、何《な》んで上《あが》らねえんだ」
「暗《くら》くって、足《あし》もとが見《み》えやしねえ」
「不自由《ふじゆう》な眼《まなこ》だの。そんなこっちゃ、面白《おもしろ》い思《おも》いは出来《でき》ねえぜ」
「重《しげ》さん、おめえ、ずっと起《お》きて何《なに》をしてなすった」
「ふふふ。こっちへ上《あが》りゃァ、直《す》ぐに判《わか》るこッた。――まァこの行燈《あんどん》の傍《そば》へ来《き》て見《み》ねえ」
漸《ようや》く眼《め》に慣《な》
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