まして、あんなに高《たか》く昇《のぼ》ってるじゃねえか。――いってえ重《しげ》さん。おめえ、寝《ね》てえたんだか起《お》きてたんだか、なぜ返事《へんじ》をしてくれねえんだ」
「返事《へんじ》なんざ、しちゃァいられねえよ。――いいからこっちへ這入《はい》ンねえ」
不機嫌《ふきげん》な春重《はるしげ》の顔《かお》は、桐油《とうゆ》のように強張《こわば》っていた。
「へえってもいいかい」
「帰《かえ》るんなら帰《かえ》ンねえ」
「いやにおどかすの」
「振《ふ》られた朝帰《あさがえ》りなんぞに寄《よ》られちゃ、かなわねえ」
「ふふふ。振《ふ》られてなんざ来《き》ねえよ。それが証拠《しょうこ》にゃ、いい土産《みやげ》を持《も》って来《き》た」
「土産《みやげ》なんざいらねえから、そこを締《し》めたら、もとの通《とお》り、ちゃんと心張棒《しんばりぼう》をかけといてくんねえ」
「重《しげ》さん、おめえまだ寝《ね》るつもりかい」
「いいから、おいらのいった通《とお》りにしてくんねえよ」
松《まつ》五|郎《ろう》が不承無承《ふしょうぶしょう》に、雨戸《あまど》の心張棒《しんばりぼう》をかうと、九|尺
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