かな日《ひ》の光《ひかり》が、吹矢《ふきや》で吹《ふ》き込《こ》んだように、こまい[#「こまい」に傍点]の現《あらわ》れた壁《かべ》の裾《すそ》へ流《なが》れ込《こ》んでいた。
「春重《はるしげ》さん。重《しげ》さん。――」
が、それでも春重《はるしげ》は返事《へんじ》をしずに、そのまま鎌首《かまくび》を上《あ》げて、ひそかに上《あが》りはなの方《ほう》へ這《は》い寄《よ》って行《い》った。
「おかしいな。いねえはずァねえんだが。――あかりをつけて寝《ね》てるなんざ、どっちにしても不用心《ぶようじん》だぜ。おいらだよ。松《まつ》五|郎《ろう》様《さま》の御登城《ごとじょう》だよ」
「もし、親方《おやかた》」
突然《とつぜん》、隣《となり》の女房《にょうぼう》おたきの声《こえ》が聞《き》こえた。
「ねえお上《かみ》さん。ここの家《うち》ァ留守《るす》でげすかい。寝《ね》てるんだか留守《るす》なんだか、ちっともわからねえ」
「いますともさ。だが親方《おやかた》、悪《わる》いこたァいわないから、滅多《めった》に戸《と》を開《あ》けるなァお止《よ》しなさいよ。そこを開《あ》けた日《ひ》にゃ
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