》いかぶさったその顔《かお》は、益々《ますます》上気《じょうき》してゆくばかりであった。
三
「重《しげ》さん。もし、重《しげ》さんは留守《るす》かい。――おやッ、天道様《てんとうさま》が臍《へそ》の皺《しわ》まで御覧《ごらん》なさろうッて真《ま》ッ昼間《ぴるま》、あかりをつけッ放《ぱな》しにしてるなんざ、ひど過《す》ぎるぜ。――寝《ね》ているのかい。起《お》きてるんなら開《あ》けてくんねえ」
どこかで一|杯《ぱい》引《ひ》っかけて来《き》た、酔《よ》いの廻《まわ》った舌《した》であろう。声《こえ》は確《たしか》に彫師《ほりし》の松《まつ》五|郎《ろう》であった。
「ふふふふ。とうとう寄《よ》りゃがったな」
首《くび》をすくめながら、口《くち》の中《なか》でこう呟《つぶや》いた春重《はるしげ》は、それでも爪《つめ》を煮込《にこ》んでいる薬罐《やかん》の傍《そば》から顔《かお》を放《はな》さずに、雨戸《あまど》の方《ほう》を偸《ぬす》み見《み》た。陽《ひ》は高々《たかだか》と昇《のぼ》っているらしく、今《いま》さら気付《きづ》いた雨戸《あまど》の隙間《すきま》には、なだら
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