行《い》っちゃァ、穏《おだ》やかでねえから、おめえ行《い》きねえッてんだ」
「だって、こんなこたァ、どこの家《うち》だって、みんな亭主《ていしゅ》の役《やく》じゃないか」
「おいらァいけねえ」
「なんて気《き》の弱《よわ》い人《ひと》なんだろう」
「臭《くせ》えからいやなんだ」
「お前《まえ》さんより、女《おんな》だもの。あたしの方《ほう》が、どんなにいやだか知《し》れやしない。――昔《むかし》ッから、公事《くじ》かけ合《あい》は、みんな男《おとこ》のつとめなんだよ」
「ふん。昔《むかし》も今《いま》もあるもんじゃねえ。隣近所《となりきんじょ》のこたァ、女房《にょうぼう》がするに極《きま》ッてらァな。行《い》って、こっぴどくやっ付《つ》けて来《き》ねえッてことよ」
壁《かべ》一|重《え》隣《となり》の左官夫婦《さかんふうふ》が、朝飯《あさめし》の膳《ぜん》をはさんで、聞《きこ》えよがしのいやがらせも、春重《はるしげ》の耳《みみ》へは、秋《あき》の蝿《はえ》の羽《は》ばたき程《ほど》にも這入《はい》らなかったのであろう。行燈《あんどん》の下《した》の、薬罐《やかん》の上《うえ》に負《お
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