―」
「それに違《ちげ》えねえやな。でえいち、外《ほか》にあんな匂《におい》をさせる家業《かぎょう》が、ある筈《はず》はなかろうじゃねえか。雪駄《せった》の皮《かわ》を、鍋《なべ》で煮《に》るんだ。軟《やわ》らかにして、針《はり》の通《とお》りがよくなるようによ」
「そうかしら」
「しら[#「しら」に傍点]も黒《くろ》もありァしねえ。それが為《ため》に、忙《いそが》しい時《とき》にゃ、夜《よ》ッぴて鍋《なべ》をかけッ放《はな》しにしとくから、こっちこそいい面《つら》の皮《かわ》なんだ。――この壁《かべ》ンところ鼻《はな》を当《あ》てて臭《か》いで見《み》ねえ。火事場《かじば》で雪駄《せった》の焼《や》け残《のこ》りを踏《ふ》んだ時《とき》と、まるッきり変《かわ》りがねえじゃねえか」
「あたしゃもう、ここにいてさえ、いやな気持《きもち》がするんだから、そんなとこへ寄《よ》るなんざ、真《ま》ッ平《ぴら》よ。――ねえお前《まえ》さん。後生《ごしょう》だから、かけ合《あ》って来《き》とくれよ」
「おめえ行《い》って来《き》ねえ」
「女《おんな》じゃ駄目《だめ》だというのにさ」
「男《おとこ》が
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