え。これが金《きん》の棒《ぼう》を削《けず》った粉《こな》とでもいうンなら、拾《ひろ》いがいもあろうけれど、高《たか》が女《おんな》の爪《つめ》だぜ。一|貫目《かんめ》拾《ひろ》ったところで、※[#「やまいだれ+票」、第3水準1−88−55]疽《ひょうそ》の薬《くすり》になるくれえが、関《せき》の山《やま》だろうじゃねえか。よく師匠《ししょう》も、春重《はるしげ》は変《かわ》り者《もの》だといってなすったが、まさかこれ程《ほど》たァ思《おも》わなかった」
「おいおい松《まっ》つぁん、はっきりしなよ。おいらが変《かわ》り者《もの》じゃァねえ。世間《せけん》の奴《やつ》らが変《かわ》ってるんだ。それが証拠《しょうこ》にゃ。願《がん》にかけておせんの茶屋《ちゃや》へ通《かよ》う客《きゃく》は山程《やまほど》あっても、爪《つめ》を切《き》るおせんのかたちを、一|度《ど》だって見《み》た男《おとこ》は、おそらく一人《ひとり》もなかろうじゃねえか。――そこから生《うま》れたこの爪《つめ》だ」
 一つずつ数《かぞ》えたら、爪《つめ》の数《かず》は、百|個《こ》近《ちか》くもあるであろう。春重《はるし
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