頃《ちかごろ》はやりの紅色《べにいろ》の糠袋《ぬかぶくろ》だった。
「こいつァ重《しげ》さん、糠袋《ぬかぶくろ》じゃァねえか」
「まずの」
「一|朱《しゅ》はずんで、糠袋《ぬかぶくろ》を見《み》せてもらうどじ[#「どじ」に傍点]はあるめえぜ。――お前《めえ》いまなんてッた。おせんの雪《ゆき》のはだから切《き》り取《と》った、天下《てんか》に二つと無《ね》え代物《しろもの》を拝《おが》ませてやるからと。――」
「叱《し》ッ、極内《ごくない》だ」
「だってそんな糠袋《ぬかぶくろ》。……」
「袋《ふくろ》じゃねえよ。おいらの見《み》せるなこの中味《なかみ》だ。文句《もんく》があるンなら、拝《おが》んでからにしてくんな。――それこいつだ。触《さわ》った味《あじ》はどんなもんだの」
 ぐっと伸《の》ばした松《まつ》五|郎《ろう》の手先《てさき》へ、春重《はるしげ》は仰々《ぎょうぎょう》しく糠袋《ぬかぶくろ》を突出《つきだ》したが、さて暫《しばら》くすると、再《ふたた》び取《と》っておのが額《ひたい》へ押《お》し当《あ》てた。
「開《あ》けて見《み》せねえ」
「拝《おが》みたけりゃ拝《おが》ませる
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