もし、お嬢様《じょうさま》。――」
池《いけ》を廻《まわ》って、築山《つきやま》の裾《すそ》を走《はし》るお蓮《れん》の姿《すがた》は、狐《きつね》のように速《はや》かった。
「それ、向《むこ》うから。――」
「あちらへお廻《まわ》り遊《あそ》ばしました」
男気《おとこけ》のない奥庭《おくにわ》に、次第《しだい》に数《かず》を増《ま》した女中達《じょちゅうたち》は、お蓮《れん》の姿《すがた》を見失《みうしな》っては一|大事《だいじ》と思《おも》ったのであろう。老《おい》も若《わか》きもおしなべて、庭《にわ》の木戸《きど》へと歩《ほ》を乱《みだ》した。
が、必死《ひっし》に駆《か》け着《つ》けた庭《にわ》の木戸《きど》には、もはやお蓮《れん》の姿《すがた》は見《み》られなかった。
「お嬢様《じょうさま》。――」
「お待《ま》ち遊《あそ》ばせ」
しかも、年《ねん》に一|度《ど》も、駆《か》けたことなどのないお蓮《れん》は、庭木戸《にわきど》を出《で》は出《で》たものの、既《すで》に脚《あし》が釣《つ》るまでに疲《つか》れ果《は》てて、口《くち》の中《なか》で菊之丞《きくのじょう》の
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