せずと、そこ退《の》きゃ」
「なりませぬ」
「ええもう、退《の》きゃというに、退《の》かぬか」
手荒《てあら》く突《つ》き退《の》けられた一人《ひとり》の侍女《じじょ》は、転《ころ》びながらも、お蓮《れん》の裾《すそ》を確《しか》と押《おさ》えた。
「お嬢様《じょうさま》。お気《き》をお静《しず》め遊《あそ》ばしまして。……」
「いらぬことじゃ。放《はな》せ」
「いいえお放《はな》しいたしませぬ。今頃《いまごろ》お出《で》まし遊《あそ》ばしましては、お身分《みぶん》に係《かか》わりまする。もしまた、たってお出《で》まし遊《あそ》ばしますなら、一|応《おう》わたくし共《ども》から御家老《ごかろう》へ、その由《よし》お伝《つた》えいたしませねば。……」
「くどいわ。放《はな》せというに、放《はな》さぬか」
夢中《むちゅう》で振《ふ》り払《はら》ったお蓮《れん》の片袖《かたそで》は、稲穂《いなほ》のように侍女《じじょ》の手《て》に残《のこ》って、惜《お》し気《げ》もなく土《つち》を蹴《け》ってゆく白臘《はくろう》の足《あし》が、夕闇《ゆうやみ》の中《なか》にほのかに白《しろ》かった。
「
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