のうの夢《ゆめ》と消《き》えるばかり。所詮《しょせん》は会《あ》えないものと、あきらめていた矢先《やさき》、ほんとうによく来《き》てくれた。あたしゃこのまま死《し》んでも、思《おも》い残《のこ》すことはない。――」
「もし、吉《きち》ちゃん」
「おお」
「しっかりしておくんなさい。羞《はず》かしながら、お前《まえ》がなくてはこの世《よ》の中《なか》に、誰《だれ》を思《おも》って生《い》きようやら、おまえ一人《ひとり》を、胸《むね》にひそめて来《き》たあたし。あたしに死《し》ねというのなら、たった今《いま》でも、身代《みがわ》りにもなりましょう。――のう吉《きち》ちゃん。たとえ一|夜《や》の枕《まくら》は交《かわ》さずとも、あたしゃおまえの女房《にょうぼう》だぞえ。これ、もうし吉《きち》ちゃん。返事《へんじ》のないのは、不承知《ふしょうち》かえ」
 一|膝《ひざ》ずつ乗出《のりだ》したおせんは、頬《ほほ》がすれすれになるまでに、菊之丞《きくのじょう》の顔《かお》を覗《のぞ》き込《こ》んだが、やがてその眼《め》は、仏像《ぶつぞう》のようにすわって行《い》った。
「吉《きち》ちゃん。――太夫
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