浮名《うきな》を立《た》てられて、さぞ迷惑《めいわく》でもあろうかと、きょうが日《ひ》まで、辛抱《しんぼう》して来《き》ましたのさ」
「勿体《もったい》ない、太夫《たゆう》さん。――」
「いいえ、勿体《もったい》ないより、済《す》まないのはあたしの心《こころ》。役者家業《やくしゃかぎょう》の憂《う》さ辛《つら》さは、どれ程《ほど》いやだとおもっても、御贔屓《ごひいき》からのお迎《むか》えよ。お座敷《ざしき》よといわれれば、三|度《ど》に一|度《ど》は出向《でむ》いて行《い》って、笑顔《えがお》のひとつも見《み》せねばならず、そのたび毎《ごと》に、ああいやだ、こんな家業《かぎょう》はきょうは止《よ》そうか、明日《あす》やめようかと思《おも》うものの、さて未練《みれん》は舞台《ぶたい》。このまま引《ひ》いてしまったら、折角《せっかく》鍛《きた》えたおのが芸《げい》を、根《ね》こそぎ棄《す》てなければならぬ悲《かな》しさ。それゆえ、秋《あき》の野《の》に鳴《な》く虫《むし》にも劣《おと》る、はかない月日《つきひ》を過《す》ごして来《き》たが、……おせんちゃん。それもこれも、今《いま》はもうき
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