還《かえ》った部屋《へや》の中《なか》には、ただ香《こう》のかおりが、低《ひく》く這《は》っているばかりであった。
 玄庵《げんあん》は、夜着《よぎ》の下《した》へ手《て》を入《い》れて、かるく菊之丞《きくのじょう》の手首《てくび》を掴《つか》んだまま首《くび》をひねった。
「先生《せんせい》、如何《いかが》でございます」
「脈《みゃく》に力《ちから》が出《で》たようじゃが。……」
「それはまァ、うれしゅうござんす」
「だが御安心《ごあんしん》は御無用《ごむよう》じゃ。いつ何時《なんどき》変化《へんか》があるか判《わか》らぬからのう」
「はい」
「お見舞《みまい》の方々《かたがた》も、次《つぎ》の間《ま》にお引取《ひきと》りなすってはどうじゃの、御病人《ごびょうにん》は、出来《でき》るだけ安静《あんせい》に、休《やす》ませてあげるとよいと思《おも》うでの」
「はいはい」と羽左衛門《うざえもん》が大《おお》きくうなずいた。「如何《いか》にも御《ご》もっともでございます。――では、ここはおかみさんにお願《ねが》い申《もう》して、次《つぎ》へ下《さが》っていることにいたしましょう」
「それが
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