めて春重《はるしげ》の顔《かお》を見守《みまも》った。
「重《しげ》さん、お前《まえ》、相変《あいかわ》らず素《す》ばしっこいよ」
「なんでよ」
「犬《いぬ》の皮《かわ》をかぶって、おせんの裸《はだか》を思《おも》う存分《ぞんぶん》見《み》た上《うえ》に写《うつ》し取《と》って来《く》るなんざ、素人《しろうと》にゃ、鯱鉾立《しゃちほこだち》をしても、考《かんが》えられる芸《げい》じゃねえッてのよ」
「ふふふ、そんなこたァ朝飯前《あさめしまえ》だよ。――おいらぁ実《じつ》ァ、もうちっといいことをしてるんだぜ」
「ほう、どんなことを」
「聞《き》きてえか」
「聞《き》かしてくんねえ」
「ただじゃいけねえ、一|朱《しゅ》だしたり」
「一|朱《しゅ》は高《たけ》えの」
「なにが高《たけ》えものか。時《とき》によったら、安《やす》いくらいのもんだ。――だがきょうは見《み》たところ、一|朱《しゅ》はおろか、財布《さいふ》の底《そこ》にゃ十|文《もん》もなさそうだの」
「けちなことァおいてくんねえ。憚《はばか》ンながら、あしたあさまで持越《もちこ》したら、腹《はら》が冷《ひ》え切《き》っちまうだろう
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