とき》に人情《にんじょう》を見《み》せてやるのが、江戸《えど》ッ子《こ》の腹《はら》の見《み》せどこだ。よし、ひとつ駕籠《かご》をはずんで、谷中《やなか》まで突《つ》ッ走《ぱし》ってやろう」
 大《おお》きく頷《うなず》いた伝吉《でんきち》は、折《おり》から通《とお》り合《あわ》せた辻駕籠《つじかご》を呼《よ》び止《と》めて、笠森稲荷《かさもりいなり》の境内《けいだい》までだと、酒手《さかて》をはずんで乗《の》り込《こ》んだ。
「急《いそ》いでくんねえよ」
「ようがす」
「急病人《きゅうびょうにん》の知《し》らせに行《ゆ》くんだからの」
「合点《がってん》だ」
 返事《へんじ》は如何《いか》にも調子《ちょうし》がよかったが、肝腎《かんじん》の駕籠《かご》は、一|向《こう》突《つ》ッ走《ぱし》ってはくれなかった。
「ちぇッ。吉原《よしわら》だといやァ、豪勢《ごうせい》飛《と》びゃァがるくせに、谷中《やなか》の病人《びょうにん》の知《し》らせだと聞《き》いて、馬鹿《ばか》にしてやがるんだろう。伝吉《でんきち》ァただの床屋《とこや》じゃねえんだぜ。当時《とうじ》江戸《えど》で名高《なだけ》え
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