折《ゆびお》り数《かぞ》えていた、仮名床《かなどこ》の亭主《ていしゅ》伝吉《でんきち》は、いきなり、息《いき》がつまるくらい荒《あら》ッぽく、拳固《げんこ》で背中《せなか》をどやしつけられた。
「痛《いて》ッ。――だ、だれだ」
「だれだじゃねえや、てえへんなことがおっ始《ぱじ》まったんだ。子丑寅《ねうしとら》もなんにもあったもんじゃねえ。あしたッから、うちの小屋《こや》は開《あ》かねえかも知《し》れねえぜ」
 火事場《かじば》の纏持《まといもち》のように、息《いき》せき切《き》って駆《か》け込《こ》んで来《き》たのは、同《おな》じ町内《ちょうない》に住《す》む市村座《いちむらざ》の木戸番《きどばん》長兵衛《ちょうべえ》であった。
 伝吉《でんきち》はぎょっとして、もう一|度《ど》長兵衛《ちょうべえ》の顔《かお》を見直《みなお》した。
「な、なにがあったんだ」
「なにがも、かにがもあるもんじゃねえ、まかり間違《まちが》や、てえした騒《さわ》ぎになろうッてんだ。おめえンとこだって、芝居《しばい》のこぼれを拾《ひろ》ってる家業《かぎょう》なら、万更《まんざら》かかり合《あい》のねえこともなか
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