知《し》らないが、その文《ふみ》一|本《ぽん》で、まさか二十五|両《りょう》の大金《たいきん》は出《だ》すまいよ」
「それでも兄《にい》さんは、ただの二|字《じ》でも三|字《じ》でも、あたしの書《か》いた文《ふみ》さえ持《も》って行《い》けば、お金《かね》は右《みぎ》から左《ひだり》とのことでござんした」
「そりゃ、いつのことだの」
「ゆうべでござんす」
おせんがもう一|度《ど》、顔《かお》を上《あ》げた時《とき》であった。突然《とつぜん》障子《しょうじ》の外《そと》から、藤吉《とうきち》の声《こえ》が低《ひく》く聞《きこ》えた。
「おせんさん、大変《たいへん》なことができましたぜ。浜村屋《はまむらや》の太夫《たゆう》が、急病《きゅうびょう》だってこった」
おせんは「はッ」と胸《むね》が詰《つ》まって、直《す》ぐには口《くち》が听《き》けなかった。
夢《ゆめ》
一
子《ね》、丑《うし》、寅《とら》、卯《う》、辰《たつ》、巳《み》、――と、客《きゃく》のない上《あが》りかまち[#「かまち」に傍点]に腰《こし》をかけて、独《ひと》り十二|支《し》を順《じゅん》に指
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