》うござんす」
千|吉《きち》は、ふところの小判《こばん》を気《き》にしながら、ほっとして頭《あたま》を下《さ》げた。
襟《えり》に当《あた》る秋《あき》の陽《ひ》は狐色《きつねいろ》に輝《かがや》いていた。
七
無理《むり》やりに、手習《てなら》いッ子《こ》に筆《ふで》を握《にぎ》らせるようにして、たった二|行《ぎょう》の文《ふみ》ではあったが、いや応《おう》なしに書《か》かされた、ありがたく存《ぞん》じ候《そうろう》かしこの十一|文字《もじ》が気《き》になるままに、一|夜《や》をまんじりともしなかったおせんは、茶《ちゃ》の味《あじ》もいつものようにさわやかでなく、まだ小半時《こはんとき》も早《はや》い、明《あ》けたばかりの日差《ひざし》の中《なか》を駕籠《かご》に揺《ゆ》られながら、白壁町《しろかべちょう》の春信《はるのぶ》の許《もと》を訪《おとず》れたのであった。
弟子《でし》の藤吉《とうきち》から、おせんが来《き》たとの知《し》らせを聞《き》いた春信《はるのぶ》は、起《お》き出《で》たばかりで顔《かお》も洗《あら》っていなかったが、とりあえず画室《がしつ》へ
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