きら》いではない菊之丞《きくのじょう》を、おせんがどれ程《ほど》思《おも》い詰《つ》めているかは、いわずと知《し》れているものの、今《いま》では江戸《えど》一|番《ばん》の女形《おやま》といわれている菊之丞《きくのじょう》が、自分《じぶん》からおせんの許《もと》へ、それも毎晩《まいばん》通《かよ》って来《き》ようなぞとは、どこから出《で》た噂《うわさ》であろう。岡焼半分《おかやきはんぶん》の悪刷《わるずり》にしても、あんまり話《はなし》が食《く》い違《ちが》い過《す》ぎると、千|吉《きち》は思《おも》わず鬼《おに》七の顔《かお》を見返《みかえ》した。
「何《な》んで、そんな不審《ふしん》そうな顔《かお》をするんだ」
「何《な》んでと仰《おっ》しゃいますが、あんまり親方《おやかた》のお聞《き》きなさることが、解《げ》せねえもんでござんすから。……」
「おいらの訊《き》くことが解《げ》せねえッて。――何《なに》が解《げ》せねえんだ」
「浜村屋《はまむらや》は、おせんのところへなんざ、命《いのち》を懸《か》けて頼《たの》んだって、通《かよ》っちゃくれませんや」
「おめえ、まだ隠《かく》してる
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