…」
「ど、どういたしやして、鼠《ねずみ》なんぞた申《もう》しゃしません。若旦那《わかだんな》にはこれからも、鼠《ぬずみ》のように、チウ義《ぎ》をおつくし申《もう》せと、こう申《もう》したのでございます」
「お前《まえ》は口《くち》が上手《じょうず》だから。……」
「口《くち》はからきし下手《へた》の皮《かわ》、人様《ひとさま》の前《まえ》へ出《で》たら、ろくにおしゃべりも出来《でき》る男《おとこ》じゃござんせんが、若旦那《わかだんな》だけは、どうやら赤《あか》の他人《たにん》とは思《おも》われず、ついへらへらとお喋《しゃべ》りもいたしやす。――ねえ若旦那《わかだんな》。どうかおせんに、二十五|両《りょう》だけ、貸《か》してやっておくんなせえやし」
「何《なに》、二十五|両《りょう》。――」
「江戸《えど》で名代《なだい》の橘屋《たちばなや》の若旦那《わかだんな》。二十五|両《りょう》は、ほんのお小遣《こづかい》じゃござんせんか」
 千|吉《きち》はそういいながら、ふところ深《ふか》くひそませた、おせんのふみを取《と》りだした。
   ありがたく存《ぞん》じ候《そうろう》 かしこ
  
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