しろ》くもねえ。それもこれも、みんなおいらのせえだッてんじゃ、てんで立《た》つ瀬《せ》がありゃしねえや。どこの殿様《とのさま》がこさえたたとえか知《し》らねえが、長《なが》い物《もの》にゃ巻《ま》かれろなんて、あんまり向《むこ》うの都合《つごう》が良過《よす》ぎるぜ。橘屋《たちばなや》の若旦那《わかだんな》は、八百|蔵《ぞう》に生《い》き写《うつ》しだなんて、つまらねえお世辞《せじ》をいわれるもんだから、当人《とうにん》もすっかりいい気《き》ンなってるんだろうが、八百|蔵《ぞう》はおろか、八百|屋《や》の丁稚《でっち》にだって、あんな面《つら》があるもんか。飛《と》んだ料簡違《りょうけんちが》いのこんこんちきだ」
誰《だれ》にいうともない独言《ひとりごと》ながら、吉原《よしわら》への供《とも》まで見事《みごと》にはねられた、版下彫《はんしたぼり》の松《まつ》五|郎《ろう》は、止度《とめど》なく腹《はら》の底《そこ》が沸《に》えくり返《かえ》っているのであろう。やがて二三|丁《ちょう》も先《さき》へ行《い》ってしまった徳太郎《とくたろう》の背後《はいご》から、浴《あ》びせるように罵《の
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