る。いろはのいの字《じ》とろの字《じ》を書《か》いて、いろよい返事《へんじ》をしてやんねえ」
千|吉《きち》がふところから取出《とりだ》したのは、巻紙《まきがみ》と矢立《やたて》であった。
おせんは、あわてて手《て》を引《ひ》ッ込《こ》めた。
「堪忍《かんにん》しておくんなさい」
「何《なに》もあやまるこたァありゃァしねえ。暗《くら》くッて書《か》けねえというンなら、仕方《しかた》がねえ。行燈《あんどん》をつけてやる」
「もし。――」
今度《こんど》はおせんが、千|吉《きち》の手《て》をおさえた。
「何《なに》をするんだ」
「あたしゃ、どうでもいやでござんす」
「そんならこれ程《ほど》までに、頭《あたま》をさげて頼《たの》んでもか」
「外《ほか》のこととは訳《わけ》が違《ちが》い、あたしゃ数《かず》あるお客《きゃく》のうちでも、いの一|番《ばん》に嫌《きら》いなお人《ひと》、たとえ嘘《うそ》でも冗談《じょうだん》でも、気《き》の済《す》まないことはいやでござんす」
「おせん。おめえ、兄貴《あにき》を見殺《みごろ》しにするつもりか」
「何《な》んとえ」
「おめえがいやだとかぶりを振
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