《ふ》りゃァ、おいらは人《ひと》から預《あず》かった、大事《だいじ》な金《かね》を落《お》としたかどで、いやでも明日《あした》は棒縛《ぼうしば》りだ。――そいつもよかろう。おめえはかげで笑《わら》っていねえ」
「兄《あに》さん」
「もう何《な》んにも頼《たの》まねえ。これから帰《けえ》って縛《しば》られようよ」
千|吉《きち》は、わざとやけに立上《たちあが》って窓辺《まどべ》へつかつかと歩《あゆ》み寄《よ》った。
突然《とつぜん》隣座敷《となりざしき》から、お岸《きし》のすすり泣《な》く声《こえ》が、障子越《しょうじご》しに聞《きこ》えて来《き》た。
文《ふみ》
一
「若旦那《わかだんな》、もし、油町《あぶらちょう》の若旦那《わかだんな》」
「おお、お前《まえ》は千|吉《きち》つぁん」
「そんなに急《いそ》いで、どこへおいでなせえやす」
「お前《まえ》のとこさ」
「何、あっしンとこでげすッて。――あっしンとこなんざ、若旦那《わかだんな》においでを願《ねが》うような、そんな気《き》の利《き》いた住居《すまい》じゃござんせん。火口箱《ほくちばこ》みてえな、ちっぽけな
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