体《からだ》を持《もち》ちあげると、如何《いか》にも器用《きよう》に履《は》いた草履《ぞうり》を右手《みぎて》で脱《ぬ》ぎながら、腰《こし》の三|尺帯《じゃくおび》へはさんで、猫《ねこ》のように青畳《あおだたみ》の上《うえ》へ降《お》り立《た》ったのは、三|年前《ねんまえ》に家《いえ》を出《で》たまま、噂《うわさ》にさえ居所《いどころ》を知《し》らせなかった兄《あに》の千|吉《きち》だった。――藍微塵《あいみじん》の素袷《すあわせ》に算盤玉《そろばんだま》の三|尺《じゃく》は、見《み》るから堅気《かたぎ》の着付《きつけ》ではなく、殊《こと》に取《と》った頬冠《ほおかむ》りの手拭《てぬぐい》を、鷲掴《わしづか》みにしたかたちには、憎《にく》いまでの落着《おちつき》があった。
まったく夢想《むそう》もしなかった出来事《できごと》に、おせんは、その場《ば》に腰《こし》を据《す》えたまま、直《す》ぐには二の句《く》が次《つ》げなかった。
「おせん。おめえ、いくつンなった」
「十八でござんす」
「十八か。――」
千|吉《きち》はそういって苦笑《くしょう》するように頷《うなず》いたが、隣座敷
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