一人《ひとり》でいると、鼠《ねずみ》に引《ひ》かれるよ」
 隣座敷《となりざしき》では、母《はは》が燈芯《とうしん》をかき立《た》てたのであろう。障子《しょうじ》が急《きゅう》に明《あか》るくなって、膳立《ぜんだて》をする音《おと》が耳《みみ》に近《ちか》かった。
 よろめくように立上《たちあが》ったおせんは、窓《まど》の障子《しょうじ》に手《て》をかけた。と、その刹那《せつな》、低《ひく》いしかも聞《き》き慣《な》れない声《こえ》が、窓《まど》の下《した》から浮《う》き上《あが》った。
「おせん」
「えッ」
「驚《おどろ》くにゃ当《あた》らねえ。おいらだよ」
 おせんは、火箸《ひばし》のように立《た》ちすくんでしまった。

    六

「ど、どなたでござんす」
「叱《し》っ、静《しず》かにしねえ。怪《あや》しいものじゃねえよ。おいらだよ」
「あッ、お前《まえ》は兄《あに》さん。――」
「ええもう、静《しず》かにしろというのに。お袋《ふくろ》の耳《みみ》へへえッたら、事《こと》が面倒《めんどう》ンなる」
 そういいながら、出窓《でまど》の縁《えん》へ肘《ひじ》を懸《か》けて、するりと
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