しゃまた、悪《わる》いいたずらでもされたかと思《おも》って、びっくりしたじゃァないか。何《なに》も食《く》いつくような黒《くろ》じゃなし、逃《に》げてなんぞ来《こ》ないでも、大丈夫《だいじょうぶ》金《かね》の脇差《わきざし》だわな。――こっちへおいで。頭《あたま》を撫《な》で付《つ》けてあげようから。……」
「おや、髪《かみ》がそんなに。――」
母《はは》の方《ほう》へは行《い》かずに、四|畳半《じょうはん》のおのが居間《いま》へ這入《はい》ったおせんは、直《す》ぐさま鏡《かがみ》の蓋《ふた》を外《はず》して、薄暮《はくぼ》の中《なか》にじっとそのまま見入《みい》ったが、二|筋《すじ》三|筋《すじ》襟《えり》に乱《みだ》れた鬢《びん》の毛《け》を、手早《てばや》く掻《か》き揚《あ》げてしまうと、今度《こんど》はあらためて、あたりをぐるりと見廻《みまわ》した。
「お母《っか》さん」
「あいよ」
「あたしの留守《るす》に、ここに誰《だれ》か這入《はい》りゃしなかったかしら」
「おやまァ滅相《めっそう》な。そこへは鼠《ねずみ》一|匹《ぴき》も滅多《めった》に入《はい》るこっちゃァないよ。―
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