よ》のない女護《にょご》ヶ|島《しま》、ここから根岸《ねぎし》を抜《ぬ》けさえすりゃァ、眼《め》をつぶっても往《い》けやさァね」
「折角《せっかく》だが、そんな所《ところ》は、あたしゃきょうから嫌《きら》いになったよ」
「なんでげすって」
「橘屋徳太郎《たちばなやとくたろう》、女房《にょうぼう》はかぎ屋のおせんにきめました」
「と、とんでもねえ、若旦那《わかだんな》。おせんはそんななまやさしい。――」
「おっと皆《みな》までのたまうな。手前《てまえ》、孫呉《そんご》の術《じゅつ》を心得《こころえ》て居《お》りやす」
「損《そん》五も得《とく》七もありゃァしません。当時《とうじ》名代《なだい》の孝行娘《こうこうむすめ》、たとい若旦那《わかだんな》が、百|日《にち》お通《かよ》いなすっても、こればっかりは失礼《しつれい》ながら、及《およ》ばぬ鯉《こい》の滝登《たきのぼ》りで。……」
「松《まつ》っぁん」
「へえ」
「帰《かえ》っとくれ」
「えッ」
「あたしゃ何《な》んだか頭痛《ずつう》がして来《き》た。もうお前《まえ》さんと、話《はなし》をするのもいやンなったよ」
「そ、そんな御無態《ごむ
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