そがありゃァしねえ」
「冗談《じょうだん》いわっし、お前《まえ》の袂《たもと》くそなんぞ付《つ》けられたら、それこそ肝腎《かんじん》の人《ひと》さし指《ゆび》が、本《もと》から腐《くさ》って落《お》ちるわな」
「あっしゃァまだ瘡気《かさけ》の持合《もちあわ》せはござせんぜ」
「なにないことがあるものか。三日《みっか》にあげず三|枚橋《まいばし》へ横丁《よこちょう》へ売女《やまねこ》を買《か》いに出《で》かけてるじゃないか。――鼻《はな》がまともに付《つ》いてるのが、いっそ不思議《ふしぎ》なくらいなものだ」
「こいつァどうも御挨拶《ごあいさつ》だ。人《ひと》の知《し》らない、おせんの裸《はだか》をのぞかせた挙句《あげく》、鼻《はな》のあるのが不思議《ふしぎ》だといわれたんじゃ、松《まつ》五|郎《ろう》立《た》つ瀬《せ》がありやせん。冗談《じょうだん》は止《よ》しにして、ひとつ若旦那《わかだんな》、縁起直《えんぎなお》しに、これから眼《め》の覚《さ》めるとこへ、お供《とも》をさせておくんなさいまし」
「眼《め》の覚《さ》めるとことは。――」
「おとぼけなすっちゃいけません。闇《やみ》の夜《
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