つァいけねえ。何《な》んなら見舞《みまい》に行《い》ってやるよ」
「おいらも行《い》くぜ」
「わたしも行《い》く」
「いいえ、もうそんなことは。――」
 少《すこ》しも長《なが》く、おせんを引《ひ》き止《と》めておきたい人情《にんじょう》が、互《たがい》の口《くち》を益々《ますます》軽《かる》くして、まるく囲《かこ》んだ人垣《ひとがき》は、容易《ようい》に解《と》けそうにもなかった。
 すると突然《とつぜん》、はッはッはと、腹《はら》の底《そこ》から絞《しぼ》り出《だ》したような笑《わら》い声《ごえ》が、一|同《どう》の耳許《みみもと》に湧《わ》き立《た》った、
「はッはッは。みんな、みっともねえ真似《まね》をしねえで、速《はや》くおせんちゃんを、帰《かえ》してやったらどんなもんだ」
「おめえは、春重《はるしげ》だな」
「つまらねえ差《さ》し出口《でぐち》はきかねえで、引《ひ》ッ込《こ》んだ、引《ひ》ッ込《こ》んだ」
「ふふふ。おめえ達《たち》、あんまり気《き》が利《き》かな過《す》ぎるぜ。おせんちゃんにゃ、おせんちゃんの用《よう》があるんだ。野暮《やぼ》な止《と》めだてするよりも、一
前へ 次へ
全263ページ中179ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
邦枝 完二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング