え》ッちまわァ」
「おッと退《ど》いた退《ど》いた。番太郎《ばんたろう》なんぞの見《み》るもンじゃねえ」
「馬鹿《ばか》にしなさんな。番太郎《ばんたろう》でも男《おとこ》一|匹《ぴき》だ。綺麗《きれい》な姐《ねえ》さんは見《み》てえや」
「さァ退《ど》いた、退《ど》いた」
「火事《かじ》だ火事《かじ》だ」
 人《ひと》の心《こころ》が心《こころ》に乗《の》って、愈《いよいよ》調子《ちょうし》づいたのであろう。茶代《ちゃだい》いらずのその上《うえ》にどさくさまぎれの有難《ありがた》さは、たとえ指先《ゆびさき》へでも触《さわ》れば触《さわ》り得《どく》と考《かんが》えての悪戯《いたずら》か。ここぞとばかり、息《いき》せき切《き》って駆《か》け着《つ》けた群衆《ぐんしゅう》を苦笑《くしょう》のうちに見守《みまも》っていたのは、飴売《あめうり》の土平《どへい》だった。
「ふふふふ。飴《あめ》も買《か》わずに、おせん坊《ぼう》へ突《つ》ッ走《ぱし》ったな豪勢《ごうせい》だ。こんな鉄錆《てつさび》のような顔《かお》をしたおいらより、油壺《あぶらつぼ》から出《で》たよなおせん坊《ぼう》の方《ほう》が
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