い見世《みせ》から帰《かえ》りのおせんであった。
「違《ちげ》えねえ。たしかにおせんだ」
「そら行《い》け」
駆《か》け出《だ》す途端《とたん》に鼻緒《はなお》が切《き》れて、草履《ぞうり》をさげたまま駆《か》け出《だ》す小僧《こぞう》や、石《いし》に躓《つまず》いてもんどり打《う》って倒《たお》れる職人《しょくにん》。さては近所《きんじょ》の生臭坊主《なまぐさぼうず》が、俗人《ぞくじん》そこのけに目尻《めじり》をさげて追《お》いすがるていたらく。所詮《しょせん》は男《おとこ》も女《おんな》もなく、おせんに取《と》っては迷惑千万《めいわくせんばん》に違《ちが》いなかろうが、遠慮会釈《えんりょえしゃく》はからりと棄《す》てた厚《あつ》かましさからつるんだ犬《いぬ》を見《み》に行《ゆ》くよりも、一|層《そう》勢《きお》い立《た》って、どっとばかりに押《お》し寄《よ》せた。
「いやだよ直《なお》さん、そんなに押《お》しちゃァ転《ころ》ンじまうよ」
「人《ひと》の転《ころ》ぶことなんぞ、遠慮《えんりょ》してたまるもんかい。速《はや》く行《い》って触《さわ》らねえことにゃ、おせんちゃんは帰《か
前へ
次へ
全263ページ中173ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
邦枝 完二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング