んきょ》の顔《かお》を指《さ》した時《とき》だった、誰《だれ》かが突然《とつぜん》頓狂《とんきょう》な声《こえ》を張《は》り上《あ》げた。
「おせんが来《き》た。あすこへおせんが帰《かえ》って来《き》た」
二
「なに、おせんだと」
「どこへどこへ」
飴売《あめうり》土平《どへい》の道化《どうけ》た身振《みぶ》りに、われを忘《わす》れて見入《みい》っていた人達《ひとたち》は、降《ふ》って湧《わ》いたような「おせんが来《き》た」という声《こえ》を聞《き》くと、一|齊《せい》に首《くび》を東《ひがし》へ振《ふ》り向《む》けた。
「どこだの」
「あすこだ。あの松《まつ》の木《き》の下《した》へ来《く》る」
斜《なな》めにうねった道角《みちかど》に、二抱《ふたかか》えもある大松《おおまつ》の、その木《き》の下《した》をただ一人《ひとり》、次第《しだい》に冴《さ》えた夕月《ゆうづき》の光《ひかり》を浴《あ》びながら、野中《のなか》に咲《さ》いた一|本《ぽん》の白菊《しらぎく》のように、静《しず》かに歩《あゆ》みを運《はこ》んで来《く》るほのかな姿《すがた》。それはまごう方《かた》な
前へ
次へ
全263ページ中172ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
邦枝 完二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング