》っては来《こ》なかった。
「ええけったいな、何《な》んとしたのじゃ。お客《きゃく》さんじゃというのに。――」
 口小言《くちこごと》をいいながら、自《みずか》ら格子戸《こうしど》のところまで立《た》って行《い》った松江《しょうこう》は、わざと声音《こわね》を変《か》えて、低《ひく》く訊《たず》ねた。
「どなた様《さま》でござります」
「わたしだ」
「へえ」
「白壁町《しろかべちょう》の春信《はるのぶ》だよ」
「えッ」
 驚《おどろ》きと、土間《どま》を駆《か》け降《お》りたのが、殆《ほとん》ど同時《どうじ》であった。
「お師匠《ししょう》さんでおましたか。これはまァ。……」
 がらりと開《あ》けた雨戸《あまど》の外《そと》に、提灯《ちょうちん》も持《も》たずに、独《ひと》り蒼白《あおじろ》く佇《たたず》んだ春信《はるのぶ》の顔《かお》は暗《くら》かった。
「面目次第《めんぼくしだい》もござりませぬ。――でもまァ、ようおいでで。――」
「ふふふ。あんまりよくもなかろうが、ちと、来《き》ずには済《す》まされぬことがあっての」
「そこではお話《はなし》も出来《でき》ませんで。……どうぞ、こ
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