ちらへお通《とお》り下《くだ》さりませ」
「しかし、わたしが上《あが》っても、いいのか」
「何《なに》を仰《おっ》しゃいます。狭苦《せまくる》しゅうはござりますが、御辛抱《ごしんぼう》しやはりまして。……」
「では遠慮《えんりょ》なしに、通《とお》してもらいましょうか。……のう太夫《たゆう》」
座敷へ上《あが》って、膝《ひざ》を折《お》ると同時《どうじ》に、春信《はるのぶ》の眼《め》は険《けわ》しく松江《しょうこう》を見詰《みつ》めた。
「今更《いまさら》あらためて、こんなことを訊《き》くのも野暮《やぼ》の沙汰《さた》だが、おこのさんといいなさるのは、確《たしか》にお前《まえ》さんの御内儀《ごないぎ》だろうのう」
「何《な》んといやはります」
松江《しょうこう》のおもてには、不安《ふあん》の色《いろ》が濃《こ》い影《かげ》を描《えが》いた。
「深《ふか》いことはどうでもいいが、ただそれだけを訊《き》かしてもらいたいと思《おも》っての。あれが太夫《たゆう》の御内儀《ごないぎ》なら、わたしはこれから先《さき》、お前《まえ》さんと、二|度《ど》と顔《かお》を合《あ》わせまいと、心《こころ
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