そで》を通《とお》したまま、早《はや》くも姿《すがた》は枝折戸《しおりど》の外《そと》に消《き》えていた。
「藤吉《とうきち》。――藤吉《とうきち》」
「へえ」
奥《おく》からの声《こえ》は、この春《はる》まで十五|年《ねん》の永《なが》い間《あいだ》、番町《ばんちょう》の武家屋敷《ぶけやしき》へ奉公《ほうこう》に上《あが》っていた。春信《はるのぶ》の妹《いもうと》梶女《かじじょ》だった。
「ここへ来《き》や」
「へえ」
お屋敷者《やしきもの》の見識《けんしき》とでもいうのであろうか。足《あし》が不自由《ふじゆう》であるにも拘《かかわ》らず、四十に近《ちか》い顔《かお》には、触《ふれ》れば剥《は》げるまでに濃《こ》く白粉《おしろい》を塗《ぬ》って、寝《ね》る時《とき》より外《ほか》には、滅多《めった》に放《はな》したことのない長煙管《ながぎせる》を、いつも膝《ひざ》の上《うえ》についていた。
「お兄様《にいさま》は、どちらにお出《で》かけなされた」
「さァ、どこへおいでなさいましたか、つい仰《おっ》しゃらねえもんでござんすから。……」
「何《なに》をうかうかしているのじゃ。知《し》
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