《こう》見当《けんとう》が付《つ》かなくなった藤吉《とうきち》は、次《つぎ》の間《ま》に取《と》って返《かえ》すと、箪笥《たんす》をがたぴしいわせながら、春信《はるのぶ》が好《この》みの鶯茶《うぐいすちゃ》の羽織《はおり》を、捧《ささ》げるようにして戻《もど》って来《き》た。
「これでよろしいんで。……」
 それには答《こた》えずに、藤吉《とうきち》の手《て》から羽織《はおり》を、ひったくるように受取《うけと》った春信《はるのぶ》の足《あし》は、早《はや》くも敷居《しきい》をまたいで、縁先《えんさき》へおりていた。
「師匠《ししょう》、お供《とも》をいたしやす」
「独《ひと》りでいい」
「お一人《ひとり》で。……そんなら提灯《ちょうちん》を。――」
 が、春信《はるのぶ》の心《こころ》は、やたらに先《さき》を急《いそ》いでいたのであろう。いつもなら、藤吉《とうきち》を供《とも》に連《つ》れてさえ、夜道《よみち》を歩《あるく》くには、必《かなら》ず提灯《ちょうちん》を持《も》たせるのであったが、今《いま》はその提灯《ちょうちん》を待《ま》つ間《ま》ももどかしく、羽織《はおり》の片袖《かた
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